成田エキスプレス

昔、「華麗なる賭け」と言う、ステイ―ブ マックイ―ンとフェイ ダナウェー主演の映画があった。大金持ちの主人公が完全犯罪を計画、それを追求する保険会社の女性調査員との人間関係を描く内容だった。若かった僕はその映画が大好きで、何度もみては感激し、場面の中に出てくるすべての物に興味を示した。何とか同じ物を手に入れたくて探し求め、見つけては自己満足に浸っていた。主役の2人はストーリーの中での会話は少なかった気がする。でも二人の名俳優の表情や仕草が何となく大人を感じさせてくれた記憶がある。そして、ラストシーン。粋な別れ?が待っていた。言葉なんて必要ないと言わんばかりでカッコよかった。次は現実にあった別れである。それは、今は亡き祖母が、東京へ嫁いだ(叔母)が実家である名古屋へ里帰りし、帰京する際に駅のホームまで見送りに出向いた時の事、当時小学生の僕を連れて行ってくれた。汽車がホームに入るまで話は途切れる事はなく、乗り込む直前まで2人は手を握り合いながら涙していた。又、汽車の窓を開けて見えなくなるまで手を振っていた叔母、ホームからハンカチを振っていた祖母、「いつでも会えるのに、なぜ泣くのだろう?」と、幼かった僕には理解できずに不思議な光景にしか見れなかったしカッコわるいと感じていた。

それから何十年かが過ぎた。僕も大人になり親になった。世の中の常識も変わったし、人の感性も変った気がする。でも、別れや出会いの場面はどうだろうか?今、僕は子供達の「巣立ち」の時期と直面している。今年は娘、来年は息子である。そして9月7日、遂に娘をニューヨークに送り出す日がやって来た。父親としてどんな見送り方がいいのだろうか?彼女が列車に乗り込むまでの間、そんな事を考えていた。映画のワン・シーンのように?それとも、亡き祖母がみせてくれたシーンの様に?どうなる事やら分らなかった。幸い、妻が短期間ではあるが娘に同行する事ができて、多少、感情は押さえる事が出来た。いつでも会えるし、電話だってできる。ただ海外の学校へ行くだけなんだ。そう自分に言い聞かせて何か熱い物がこみ上げてくるのをこらえていた。でも結局は「ガンバレ!」だけとしか言えなかった。送る方、送られる方、不思議な感情が自然に生まれると思った。カッコ良くとか悪いなんて関係なく、どこかへ飛んでいってしまった。「成田エキスプレス」がホームにゆっくりと入って来た。窓にはフィルターが貼られている。乗車した娘には僕の姿ははっきりと見えた事だろう。でも、ホームの僕からは車内の様子は見ずらく、僕自身の姿を鏡のように写しながら発車していった。娘はどんな表情をして旅立って行ったのだろうか?親が心配する程でもないよ!と、きっと皆に言われると思う。でも、やっぱり寂しかった。それと言い忘れた事が気になっていた。僕一人だけで名古屋まで帰る「のぞみ号」、いつもより時間の感覚が薄れている感じがした。と、同時に携帯電話のバイブレーターがメールの着信を知らせた。娘からであった。「送ってくれて、アリガトウ」。もちろん海外では使用できないと知りながら持って行った様だが、空港での待ち時間に送信したのだろう、嬉しかった。急いで言い忘れた事、「体に気をつけろよ!」を、返信した。しばらくは寂しくなるだろう。でも、多くの経験を重ねて大人になった娘の姿を想像すると、次はきっと新しい出会いがある。きっと…、その日を楽しみに待つことにする。