ひとり言

 5月は仕事の他、日頃お世話になっている会社のパーテイーへの御招待を2回程受けた。現在の経済不況の中で祝宴を開く事の出来る会社は少ないと思う。従って努力やアイデアで頑張ってこられた経営者や社員の皆さんの表情は明るく自身に溢れていた。又、招待客もさまざまな業種、色々な意見や状況を聞く事ができて勉強できた一時であった。そんな席上で、ある大手商社マンとお話するチャンスがあった。もちろん同世代で役職も責任ある立場の方である。開口一番、「若い頃よく聞いたものでした」、「青春の1ページでした」と言う過去形から始まり、「エツチャンは変わりないですね!、松崎さんは白髪が増えましたね!」まあ、それはそれでいいのだが…。その後の言葉が胸に突き刺った。「まだ歌っているんですか?」、正直にこれにはマイッタ!。僕は「ええ、まあ〜」としか言えなかった。

時代だからしょうがないとは思うが今、僕達の居場所がないのも事実だ。まあ、一般の人達から見ればテレビやラジオの露出頻度がタレント活動を知るバロメーターであって、僕達のように新曲の発売は今のところ予定なし、最近のヒット曲もなし、テレビも年に数回で、ないないずくしでそう思われても致し方がない。ステージだけの活動で話題性に欠けているかもしれない。それは一般の方達ならともかく、マスコミ関係も同じ様に思っている様子で引退してしまった歌手のレッテルが貼られている気がする。無理もないかな?。振り返ると僕達にも10周年、20周年、30周年と節目の時期があった。でもあえてこれと言った記念のコンサートやイベントは行なわなかった。理由はあくまでそれは一つの通過点だととらえていたからである。そのせいか?今まで何の話題もなく月日は流れた。ご存知のように僕は家族を中心に仕事を続けてきた。1年の大半をアメリカ大陸レンタカーの旅を経験したり、息子とツーリングに出かけてみたり、出来る限り家族と接してきたつもりである。この事は外から見れば優雅で身勝手な生活と思われても仕方ない。でも、お休みの間は仕事はないのだから収入はゼロ!不安であったのも事実である。まるで綱渡りのギャンブル生活だったかもしれない。幸いにもそんな生活を14年間もの長い間続けてこられた。子供達も何事もなく成人する事ができた。これはお金では買えない経験、それが我が家の大きな財産だと自己満足に浸ってきた。しかし、今、冷静に考えると子供達が一人立ちした後は不安だらけである事を先の商社マン氏との会話で教えられた。気が付くのが遅過ぎる?!その通りかもしれない。現在置かれている立場を思い知らされた。数日後の19日は群馬でのコンサートがあった。今回のステージのメンバーは2名、G:加藤達雄君、P:渡辺雅ニ君、小編成ながら音響、照明スタッフもいつもと一緒であった。


松崎海岸

 そんな事を考えていたらステージは自然に気合が入っていた。何かしなければならない!だからコンサート後はいつになく疲れが出ていた。終演後ホテルにチェックイン、僕は酒を呑みながら今後のチェリッシュの方向を描いていた。宣伝や売り込みも必要だ。話題作りはワイドショーが一番、これに優るものはない。優るもの…、まさる…、勝!そうだ、勝るといえば梨本勝、彼にお願いしてガセネタを作ろう。例えば、「チェリッシュ、銀婚式を過ぎ離婚か?26年目の破局!松崎に愛人発覚、妻エツチャンの苦悩!、現在ヒット中の「カブトムシのタンゴ」、100万枚突破後に正式離婚か?子供達へのインタビュー…、そんな父だとは信じられません!もしそうだったら…(涙)、母が可哀想!僕はレポーターを避けるように車に乗りこむ!帽子を目深にかぶり、サングラスにマスク?客観的には銀行強盗のスタイルである。スポーツ紙、ワイドショーのトップを連日飾っている。してやったり!計算どうりだ!満足感に微笑む僕。芸能界での話題作りに成功し、しばらくは有名人になる!。と思った瞬間…目が醒めた。夢!ホテルのベッドで夢から醒めた。そんな事あるはずもない。何を考えているのか?馬鹿な自分に呆れかえってしまい思わず笑ってしまった。隣のベッドではエツチャンはまだ寝ていた。無理だよな〜、そんな事出きる筈もないしチェリッシュとは無縁だ。普通でいい。と、「ひとり言」。それが僕達の生き方なんだ!又、誰かに「まだ歌っているんですか?」と聞かれたら、「ええ、まあ〜」としか言えないであろうが…。